仲代達矢の修行論

 ある冊子を読んでいたら、仲代達矢氏のインタビューが載っていた。社会人になって、3年目を迎えるが、自分自身、社会人として、ビジネスマンとして、うまくやれているのか、とても不安になっていたところ、俳優修行についての話が、自分を勇気づけた。

 千三百人から選ばれて入塾すると、既に俳優だと勘違いしてしまう若者も多いですが、最初の十年間はあくまでも基礎づくりの時期です。しかし身体で理解させるのに三年かかる。それにはまず朝五時に起きて夜の八時まで勉強しろと言うんですね。そうすれば三年が五年の価値になります。それだけ基礎は重要です。軸となる基礎がしっかりできていれば多少のことではブレない。一年目は無我夢中ですが、二、三年目となると皆目つきが変わってきますよ。モスクワ芸術座の演劇大学では学ぶ期間は十年。寿司職人だって一人前になるまで十年はかかる。でも俳優はプロとアマチュアの差がはっきりしないんです。一、二本はうまく演れても、長距離選手としてプロの俳優に徹するには基礎をみっちりやらなきゃ続きません。

 近ごろ、はたして自分は社会人としての力量はついているのか、ここで大丈夫なのかという一抹の不安をもっていたが、それがすこし薄れた。いまは基礎。プロフェッショナルとして、長距離を走るための礎を築く時間が今なんだ。