羽生四冠王の勉強法とその勉強観

 私が将棋を上達するためにしてきた勉強法は、初心者のころも今も変わらない。基本のプロセスは、次の四つだ。
 ・アイデアを思い浮かべる。
 ・それがうまくいくか細かく調べる。
 ・実線で実行する。
 ・検証で反省する。*1

 私は、今の時代は、いろんなことが便利になり、近道が非常に増えた時代だと思っている。何かをやろうと思ったときに、さまざまな情報があり、安易な道、やさしい道が目の前に数多くある。楽に進める環境も充実している。昔は、遠い、一本の道しかなかった。そのため、選択の余地なくその道を歩んだけれど、今は近道が他にたくさんできている。わざわざ一番遠い道を選んで行くのは損だという思いにかられる。その横では近道で通り過ぎてゆく人がたくさんいるのだから。自分自身で、「何をやっているのだ」と思うこともあるだろう。逆に、昔よりも選択が難しい時代なのかもしれない。しかし、遠回りをすると目標に到達するのに時間はかかるだろうが、歩みの過程で思わぬ発見や出会いがあったりする。将棋でも、直接対極に関係ないように思えることが、あとになってプラスになったということはいろいろある。対局で、未知の場面に遭遇したときには、直接的な知識や経験以外のものが役に立ったりするのだ。
 若いころ、一人で考え、学んだ知識は、今の将棋では古くなり、何の役にも立たない。だが、自分の力で吸収した考える力とか未知の局面に出会ったときの対処の方法とか、さまざまなことを学べたと思っている。私は、自ら努力せずに効率的にやろうとすると、身につくことが少ない気がしている。近道思考で、簡単に手に入れたものは、もしかしたらメッキかもしれない。メッキはすぐに剥げ落ちてしまうだろう。*2

*1:羽生善治『決断力』p153

*2:同書p155−156