ひとの手

 いろいろと追い込まれている。やらなきゃいけない。そう、やらなきゃいけないんだ。
 すこし気持ちを和らげるために、本を読む。やわらかくしみこんでくる滋養のあることばをもとめて。

 『色と空のあわいで』という往復書簡集の装丁にひかれ、買う。すぐに読む。すぐに読んでしまったが、あとで読みかえすことで、じわじわとしみこむ豊かなことばの水脈がある気がする。

 この書簡集を読んで、これは「ひとの手」にかんする本だと思った。

 人の手は、人をあやめる手でまた有用無用の仕事をする。人を愛撫もする。その手でまた人の物を奪う。ひとたび罪業の臭いが鼻についたらいくら洗っても綺麗にはならない。しかし、その手でまた、舞いも踊りもする。そして、祈りもする。
 最期にはその手の内に、伝えても所詮伝わらぬ言葉を納める。*1

 ひとの心を救うことばを書く手。いっぽうで、ひとをあやめる手。ひとにおける手と生のつながりを考えた。ヒッチコックの「ロープ」という作品を思い出した。そして、『罪と罰』にまた登ってみようとおもった。

*1:p.29.